技能実習を3年間終えたあと、いったん母国へ帰国する外国人社員は少なくありません。その際によく話題になるのが、年金の「脱退一時金」です。特定技能で働いていた方が、在留期間を終えて帰国するケースもあります。
こうした外国人社員は、在職中に厚生年金保険料を納めています。ただ、日本の年金を将来受け取るには原則10年以上の加入が必要なため、短い期間で帰国する外国人には、納めた保険料の一部を一時金として受け取れる「脱退一時金(だったいいちじきん)」という制度が用意されています。
請求の手続きは外国人本人が行うことが多い制度ですが、帰国前の準備がそろっていないと受け取れなかったり、将来の再雇用に影響したりすることがあります。この記事では、受け入れ企業のご担当者様が押さえておきたい仕組みと注意点を、日本年金機構の案内(2026年9月時点)をもとにまとめました。
脱退一時金とは?受け取れる4つの条件
外国人社員が次の4つをすべて満たすと、本人が脱退一時金を請求できます。
- 日本国籍を持っていない
- 厚生年金(または国民年金)に6か月以上加入している
- 日本に住所がない(帰国して転出している)
- 年金(障害手当金を含む)を受け取る権利を持ったことがない
請求できるのは、日本に住所がなくなった日から2年以内です。
3年間の技能実習を終えた場合、脱退一時金はいくらくらい?
厚生年金の場合、支給額は「加入していた期間の平均の給料(平均標準報酬額)× 支給率」で計算します。加入期間が36か月以上42か月未満なら、支給率は3.3です。
例)平均の標準報酬額が22万円で、36か月加入していた場合
22万円 × 3.3 = 約72万6千円
ここから所得税20.42%が差し引かれるため、実際に振り込まれるのは約57万8千円です。
(給料や加入月数によって金額は変わります。あくまで目安です)
外国人社員にとっては決して小さな金額ではないため、帰国前に「脱退一時金はどうすればもらえるのか」と会社に相談が来ることもよくあります。

脱退一時金の手続きの流れ
手続きの主な流れは次のとおりです。会社としては、帰国前の1〜3の段階で本人と一緒に確認しておくと、手続きがスムーズに進みます。
- 帰国前に書類をそろえる:パスポート、基礎年金番号がわかる書類(基礎年金番号通知書・年金手帳など)、受け取り口座がわかる銀行の証明書
- 市区町村役場で転出届を出す:出国予定日を「転出予定日」として届け出ます
- (税金の還付を受けたい場合)税務署に「納税管理人の届出書」を出す:帰国前に、日本での最後の住所地を管轄する税務署へ届け出ます
- 請求書を書く:日本年金機構のホームページに、ベトナム語など母国語と日本語を併記した様式があります。ローマ字の大文字で記入します
- 郵送する:転出予定日の後に届くように、日本年金機構(外国業務グループ)へ送ります
- 受け取る:指定した口座に振り込まれ、「脱退一時金支給決定通知書」が届きます
請求に必要な添付書類
- パスポートの写し(氏名・生年月日・国籍・署名・在留資格のページ)
- 住民票の除票の写し(転出届を出していれば不要)
- 銀行の証明書(銀行名・支店名・支店の住所・口座番号・本人名義がわかるもの)
- 基礎年金番号がわかる書類
技能実習生の脱退一時金で、企業担当者が知っておきたい注意点
1. 受け取ると、それまでの年金加入期間はすべてなくなります
脱退一時金を受け取ると、それより前の日本の年金加入期間はゼロになります。技能実習のあと特定技能で再び雇用する予定があるなど、長く日本で働く見込みのある社員には、この点を事前に伝えておくことが大切です。
2. 一時帰国(再入国許可)の場合は、転出届が必須です
再入国許可(みなし再入国許可を含む)で出国する場合でも、転出届を出していれば請求できます。ただし転出届を出していないと、再入国許可の期限が切れるまで国民年金の加入者扱いとなり、請求できません。
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3. ゆうちょ銀行では受け取れません
日本の銀行口座で受け取る場合、口座名義がカタカナで登録されている必要があり、ゆうちょ銀行は指定できません。海外の銀行の場合は、SWIFT(BIC)コードの記入が必要です。帰国前に口座を解約してしまわないよう、受け取り口座をどうするか本人と確認しておきましょう。
4. 技能実習のあと特定技能で戻る場合は「2回に分けて」請求できます
支給額の計算は60か月(5年)分が上限です。技能実習3年+特定技能5年のように通算で5年を超える方は、技能実習を終えて帰国したときと、特定技能を終えて帰国したときの、それぞれで請求することで、各期間に応じた額を受け取れる場合があります。
5. 社会保障協定のある国の出身者は、年金期間を合算できる場合があります
フィリピン、インド、ブラジルなどは、日本と年金の期間を通算できる協定を結んでいます(2026年3月時点)。合算して10年以上になる方は、脱退一時金を請求できません。なお、ベトナム、インドネシア、ミャンマーなどは2026年3月時点で通算協定の相手国に含まれていません。
6. 税金の還付には、帰国前の準備が必要です
厚生年金の脱退一時金からは20.42%の所得税が差し引かれます。「退職所得の選択課税による還付のための申告書」を税務署に出すと戻ってくる場合がありますが、そのためには帰国前に納税管理人(日本に住んでいる方)を決め、税務署へ届け出ておく必要があります。
法改正の予定にもご注意ください
2025年6月に成立した年金制度改正法で、脱退一時金のルールが変わることが決まっています。
- 再入国許可で出国した外国人は、許可の有効期間内は脱退一時金を受け取れなくなる
- 支給の上限が5年(60か月)から8年(96か月)に引き上げられる
開始日は「2025年6月20日の公布から4年以内に政令で定める日」とされており、2026年9月時点の日本年金機構の請求書は、まだ現在のルール(上限60か月)のままです。特に、一時帰国後に再び受け入れる予定の外国人社員には影響が大きいため、最新情報を確認しながら対応することをおすすめします。
技能実習生の帰国が決まったら、脱退一時金について会社で確認しておきたいこと
技能実習生や特定技能外国人の帰国が決まったら、早めに次の点を本人と確認しておくと安心です。
- 脱退一時金の制度と、「受け取ると加入期間がなくなる」ことを説明したか
- 基礎年金番号がわかる書類の保管場所
- 受け取り口座(ゆうちょ銀行は不可)
- 転出届を出す日と、出国日・退職日の段取り
- 日本に戻って再び働く予定があるかどうか
脱退一時金の請求は、外国人本人が手続きすることが多い制度です。だからこそ、帰国前に会社や支援担当者がポイントを一緒に確認しておくことで、本人の不安を減らし、「また戻ってきたい」と思える関係づくりにもつながります。
たかやま行政書士事務所は、特定技能外国人の受け入れに必要な在留資格の手続きや、登録支援機関としての支援業務をお手伝いしています。帰国前後の在留手続や、特定技能での再受け入れについてお困りの際は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
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出典
- 日本年金機構「脱退一時金請求書(国民年金/厚生年金保険)ベトナム語版」(2026年9月時点)/日本年金機構 脱退一時金の案内ページ(各国語の請求書)
- 厚生労働省「年金制度改正法に関する広報について」(社会保障審議会年金部会 2025年6月30日資料)
